『電車の中で』
午後5時半。
そんな帰宅ラッシュの真っ最中に、俺と瑞希は山手線に乗っていた。
最寄りの代々森駅から乗り込み、新宿、高田馬場、池袋、田端と過ぎ、まもなく日暮里に到着する。
別に、これといって目的地はない。
俺たちが電車に乗ったのは、どこかに行く為ではないのだから。
もっとも、瑞希にはいいところに『いってもらう』つもりだったが……。
「……お、お願い和樹。……も、もう許し……て……」
荒い息の中、瑞希が小声で懇願してきた。
顔は真っ赤に染まり、体中からは汗が噴き出している。
混雑による熱気の為もあるだろう。
だが、一番の原因は……
「お願……だ、から……ああっ……こ、これを……と、止め……」
瑞希の大事な所に入れられた物の所為だろう。
「却下。我慢しろ。言っておくが、一周し終わる前に途中で抜いたりイッたりしたら、ペナルティとして一周追加だからな」
「そ……そんな……あ、あたし……もう……耐えられ……な……んくっ!」
瑞希の願いをあっさりと切り捨てると、俺は手にしたリモコンのスイッチを操作した。
「……だ、だめぇ」
今、瑞希の秘所とお尻にはローターが一個ずつ入っている。
しかも、スイッチのON・OFFや振動の強弱が遠隔操作出来るコードレスの優れ物だ。
「う……ううっ」
強くなった振動に、瑞希が自分の指を噛んで必死に堪える。
ちょっとでも気を抜くと、大きな声を出してしまいそうになるのだろう。
「随分と気持ちよさそうな顔をしてるな。そんなにこの玩具が気に入ったのか?」
耳元で意地悪く訊いてやる。
「そんなこ、と……ない……」
顔を左右に振って俺の言葉を否定する瑞希。
「そっか。この程度じゃ気持ちよくないか。それじゃ……」
俺は、手にしたリモコンを瑞希の目の前に突き付けると……
「もう少し……サービスしてやらないとな」
見せ付けるように、二つのローターの振動をもう一段階上げた。
「や……やめっ……んんっ!」
襲ってきた強い快感に堪えきれずに、瑞希がビクンと躰を震わせた。
「おいおい。あんまり声を出すなよ。バレても知らないぞ」
「だ、だって……」
「ま、俺は構わないけどな。どうせだったら、瑞希のいやらしい姿を見せ付けてやるか? もしかしたら、新しい快感に目覚めるかもしれないぞ」
「いや。そ、そんなの……ぜったい、に……いやぁ」
「あ、そ。だったら声を出すな」
「うっ……ううっ……」
自分の躰に爪を立てて必死に襲い来る快感に耐える瑞希。
それを後目に、俺は車内の電光表示に意識を向けた。
(次は神田、か)
現在地点を確認すると、車内表示から目を離し、再び瑞希の方に視線を戻す。
(大分出来上がってきたな)
瑞希は、ハアハアと荒い息を吐き、目も虚ろになってきている。
時折、ビクッと躰を痙攣させてもいる。
既に崩壊間近だった。
(そろそろやるか)
俺はニヤリと口元を歪めると、リモコンを操作してスイッチをOFFにした。
「えっ?」
唐突に刺激を止められ、瑞希が困惑した表情を浮かべる。
その顔を気にすることなく、俺は瑞希の躰に腕を回した。
ギュッと強く抱き締める。
「な、なに? もう許してくれるの?」
俺は瑞希に笑みを返すと……
「和樹? いったいどうし……っっ!!」
再度ローターのスイッチをONにした。
快感から解放され、完全に緊張を解いた瞬間。
まさにその一瞬を狙ったかのように再び襲いかかってきた快感。
なまじ休息を得てしまったが為に、それは瑞希にとって先程までとは比べ物にならないほどの激烈な刺激となった。
「っ! っ! っっっ!!」
途端にガクガクと震え出す瑞希。
口に手を当てて声を止めようとするが、その肝心の手は俺の腕で固定されていて動かせない。
「……ひ……んっ……ひど……い」
俺の意図に気付いた瑞希が、瞳にいっぱい涙を溜めて恨めしげに睨んでくる。
もちろん、そんなものを気になどしないが。
「さて、あと半分くらいだよ。頑張って耐えような」
俺の声に、瑞希が驚愕の表情を浮かべる。
まだそんなにあるの?
きっとそんなことを思ってるのだろう。
「さっきも言ったけど……代々森に到着する前にイッたりしたらダメだよ。もしイッちゃったりしたら、その回数分だけ周回してもらうからね」
「……っっ! うっ……ううっ……っ!」
無理よ! 絶対に無理!
瑞希の目がそう語っていた。
言葉にしないのは、口を開いたら喘ぎ声が出てしまうからだろう。
「周回してもらうからな」
そんなの知るかと言わんばかりに冷たく言い捨てると、俺は車外に目を向けた。
「今、新橋駅を過ぎた。てことは、代々森はあと10駅目。それくらい頑張れるだろ」
「……っ! …………っっ!」
弱々しく顔を振る瑞希。
俺はそれを無視して言葉を続ける。
「ちなみに……ローターの振動な、どっちのもまだ最強じゃないんだ」
「っ!?」
「前のも後ろのも、あと2メモリずつ残ってる。嬉しいだろ瑞希。もっともっと気持ちよくなれるぞ」
瑞希の顔に絶望の色が浮かぶ。
「こんな風にな」
瑞希の耳元で優しい声色で囁くと、俺は振動の強さを一段上げた。
「……っっっっっっっっっ!!」
ただでさえギリギリにまで追い詰められていた瑞希だ。さらに激しさを増した刺激に耐えられるわけがなかった。
瑞希の躰がガクガクと痙攣して……そして脱力した。
「ハア……ハア……ハア……ハア……」
荒い息を吐く瑞希。
「あれれ? イッちゃったの? まだ代々森までは結構あるのに」
今にも崩れ落ちそうな瑞希を支えながら、俺はわざとらしくため息を吐くと、如何にも残念だという口調で瑞希に言う。
「……おね……がい……も……もう……やめて……ぬい……て……ゆる……して……おねが……」
「なに言ってるんだよ。このまま続けるに決まってるだろ。代々森に着いたらそのままペナルティ分をスタートするからね」
「……そ、そんな……っっ! あ、あたし……あたし……もう……」
「どうでもいいけど、あんまりイかない方がいいよ。あとが辛くなるからな」
「だ……だめぇ……っっっ…ま、また……ま……っっ!!」
俺の腕の中で再び達する瑞希。
「おいおい。言ってる側からそれかよ。
……たった今浜松町を出たばかりだから、あと残ってるのは……8駅か。
はたして代々森に到着するまでに何回イッちゃうことやら」
そう言いながら、俺はローターの振動を容赦なくMAXにまで上げた。
「っっっっっっ!!」
「見物だねぇ」
その後、瑞希は何度も何度も絶頂を迎えた。
そして、約束通りその回数分だけペナルティが課せられた。
何周したかなど覚えていない。
ただ一つはっきりと言えるのは、ペナルティは終電まで続けられたということだ。
○ ○ ○
「もう! 和樹のばかばかばか!」
「うわっ! あ、暴れるなって!」
俺の背中で瑞希が叫ぶ。
完全に腰が抜けてしまった為、歩くことが出来なくなってしまったのだ。
どうせ帰る家は同じなのだから、なにも困ることはなかったが。
「いくらなんでも激しすぎよ! 少しは加減してよね!
……まったくもう。やりすぎた罰として明日から3日間ご飯を作ってあげないから」
「そ、そんな〜。
ご、ごめん、悪かったって。あんまりにも瑞希が可愛かったもんだから……つい暴走しちまって……」
「え? か、可愛い? ホント? え、えへへ♪
……じゃなくて!
そんなの言い訳にならないわよ! あたし、最後の方なんて、本当に死んじゃうかと思ったんだから!」
「どわーっ! だから暴れるなっつーの!」
こいつ、なんで普段はこんなにパワフルなんだ? アレの時はあんなにおとなしいのに。
俺は心の中で首を捻っていた。
まあ、それはさておき。
どうやら、今回の電車内エッチは、瑞希はあまりお気に召さなかったようだ。
普通のセックスだけでは(俺が)飽きてしまうので、マンネリ防止の為に、原稿を描く間も惜しんで考えに考え抜いた末に辿り着いたプレイだったのだが。
……実に残念だ。
それにしても、瑞希ってエッチに関しては本当に従順だよな。今回だって、最初は嫌がっていたけど、結局は俺に従ってるし。
もしかしたら、もっとハードなプレイも受け入れてくれるかも。
それどころか、マジで調教できるんじゃないか?
……試してみる価値あるかもな。
「か〜ず〜き〜」
「ん?」
「なーにイヤらしいことを考えてるのよ?」
「なっ! ど、どうして分かった!?」
「あーっ! 本当に考えてたんだーっ! 急に黙り込むからもしやとは思ったけど!」
「へっ?
……ぬおっ! お、お前、かまをかけたなっ!」
「さいってーっ! あれだけしておいてまだ足りないの!? あたしをあれだけ攻めておいて!?
……もう怒った。あたし、一週間ご飯作らない。決めた」
「わーっ! それだけは勘弁してくれーーーっ!!」
俺は、必死に瑞希に謝りながらも、胸の内では『次はどんなプレイを施そうかな』と懲りずに考えていた。
何と言うか……加虐的快感に目覚めかけているのを俺は強く実感していた。
口ではなんのかんの言っても、瑞希も満更じゃなさそうだしな。
だから、どんなものであれ、次もきっと『楽しく』なるだろう。
俺は、そう確信していた。
―――だけど、
「うるさーい! 絶対にご飯作らないから! 和樹なんか知らない!」
「瑞希ぃ〜〜〜」
次のプレイの時まで生きてるかな、俺?
< おわる >
☆ あとがき ☆
車内であんな事してたら……普通は絶対にばれるよなぁ。
何気に瑞希も派手に反応していたし。
ま、まあ、あくまでもフィクションってことで……( ̄▽ ̄;
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