自分の記憶を総動員して、頭の中に屋上へと続く階段を描く。
階段を登リ、冷たい鉄の扉を開こうとすると…
『2つおりげんきん』
……。
『2ツ折リ厳禁』と書かれた札があった。
そう、点字でそう打たれていたのだ。暇でシュールな事をする人もいたものである。
とても折り曲げられそうにない金属扉を開ける。
ここは寒いけど私の好きな場所だ。
扉を閉めて、フェンスにもたれて心地よい風に身を任していると…
扉が開く音と、あの人の足音が聞こえてきた。
浩平「今日も夕焼けだな」
扉が閉まる音がした。浩平君もちゃんと閉めたんだ。
みさき「そっか、今日も夕焼けなんだね」
浩平「80点てとこだな」
みさき「高得点だね」
この人はここで知り合った後輩の男の子だ。
是非とも『ちゃん』付けで呼びたかったな…。
その時……。
「みさきーーーーっ!」
この声はっ!
浩平「…先輩の事呼んでるみたいだけど」
みさき「気のせいだよっ!」
「みさきっ、どこよっ!」
浩平「間違いなく呼び声が聞こえるけど…またか?」
「出てきなさい!」
浩平「…またなのか?」
読まれてる。
みさき「ぷ、プラズマだよっ!」
みさき「えっとえっと……」
みさき「私はいないって言ってね」
そう言って扉の反対側に隠れた。
ばんっ!
轟音と共に扉が開いた。
雪見「今度こそここだと思ったけど、感が鈍ったかな」
雪ちゃん冴えてる、今度もだよ。
雪見「あら? 浩平君じゃない。みさき見なかった?」
浩平君…上手くごまかして〜。
浩平「さっきまでここにいたけど、そこの排水パイプから逃げた」
雪見「何言ってんの、こんな狭い所入れる訳ないじゃない」
浩平「俺もそう思ってた、だが、『ゴキゴキッ!』て肩の関節外してヘビみたいに『ニュルン』と入って行った」
何か酷い事言ってる〜。
雪見「……凄い技身に着けたわね…」
浩平「俺もそう思う、凄く不気味だったぞ」
雪ちゃんは、そのまま戻って行った。
みさき「人を奇人変人大集合みたいに言わないでよ〜」
この可愛くて…ちょっと変な後輩の男の子と知り合って、こんな他愛のないやり取りができるようになっていた。
スイッチ(男子トイレ偏)
作:OLSON
原作:Tactics
えっと…
男の人の…おちんちんがこうなるのって…
小さな頃、お父さんとお風呂に入った時に、お父さんのおちんちんに興味を抱き触ったことがあった。
ぶにゃりと柔らかくて面白かった記憶がある。
私って一体……。
お母さんに男女のからだの違いを教わった時に、あんな柔らかい物が入るのか? と質問したっけ。
お母さんは苦笑して『大好きな人を可愛がりたい時におちんちんは大きくなって硬くなる』と言っていた。
だからお父さんは私のことが大好きではなく可愛がりたくないんだと思い、すねていた記憶がある。
まあ…今では本質的な事や『可愛がる』事の意味は理解している。
要するにHな気持ちになるとこうなる訳だ。
あんな事を考えたからこうなってしまったようだ。
…どうしよう…。
男の人って普段はこうなってないから元には戻せるんだよね…?
子供を作る時にこうなる訳だから…
子作りする訳にはいかないよ〜!
うー…
えっと…女の体の中にある卵子に男の人の精子がくっつくんだよね…
精子は…おちんちんから出てくるから…精子を出してしまえば収まるのかな?
どうすれば出るんだろう?
先っちょをつついてみる。
みさき「きゃ!」
拭いた時の刺激を再び感じた。
この刺激が何かに似てると思ったら…
アレをする時だ。
時々、何だかもやもやして体の中心がムズムズすることがあり、あそこをいじる時の感覚だった。
しばらくいじって体がびくっ! と跳ね上がったら、ふわふわした気持ちになって…しばらくして収まるとムズムズも収まりすっきりしていた。
いけないことをしているようで不安だったけど、目が見えなくなる数日前、男の子が学校に持ってきてわいわい騒いでいた本をこっそり見てみたら大きなおっぱいをした女の人がそういうことをする写真があり、少なくとも私だけがする訳ではないと安心できた。
目が見えなくなってからは不安を紛らわす為に…つい、してしまう回数が増えた。
その時は、あの本に載っていた女の人と男の人が…その、そういうことをしている写真を思い出したりしていた。
今みたいに…
ぐに。
…あれ?
右手はあそこをいじっていて、左手はけっこう膨らんできた私のおっぱいを揉もうとして…
あ、今、私は浩平君で男の子だからある訳ないか。
って、いつの間にか私…していた。
いつものくせで私のあそこをいじるみたいにしてしまった。
感覚が似ているせいかな…。
みさき「ん…ふ…」
いつの間にか先端をこねくり回していた。
何かぬるぬるとした液体で濡れている。
男の子も、ここはこんな感じなんだ…って、反対側の手は…いじり慣れたこりこりした感触の物をいじっていた。
私…今は男の子だからおっぱいはない…はず。
…そうだ。今は目が見えるから解らない事があったら目で見ればいいんだ。
胸を見る。
やっぱり…ない。
ふかっとした感覚はなく、ぐにぐにと硬かった。
でも、乳首はこりこりして指で転がすと…気持ちいい。
いつものようにしても…いいのかもしれない。
その時、もやもや、ムズムズした感覚が今の私にも芽生えている事に気付いた。
だとしたら…今の刺激を続けていればいいのかな?
……
おちんちん…の、付け根に、何やらせり上がる感覚がある。
みさき「ふっ…ふうっ…」
せり上がる感覚が強まり膨らむ。
刺激する指の動きが早まる。
何も…考えられなくなる。
みさき「ふっ…ふっ…ふっ…」
頭の中が真っ白になる。
何かが上ってきて飛び出しそう。
おしっこが勢いよく飛び出すような感覚。
おちんちんの先端が…はじけた。
………
……
…
みさき「…ふはぁ、ふはぁ、ふはぁ…」
………
虚脱して陶器のタンクにもたれかかっていた。
こうやってふわふわした感覚が…
…あれ?
感覚はあっさりと冷めて冷静になった。
男の人って…あれで終わりなの?
…何だか可哀想。
みさき「…て、うわ」
とんでもない事をしてしまった。
おちんちんの先端から前の壁に向かって白い液体が飛び散っていた。
確か、精子ってこういうのだと聞いたことがある。
そして、反り返っていたおちんちんは見る見るうちにしぼみ、硬さを失って下を向いた。
予想通りだった。
…何だか面白い。
…って、私…何でこんなに落ち着いてるんだろう?
出してしまってからは妙に落ち着いている。
まずは拭かなくちゃ。
先端から白い液体の残りが糸を引いて垂れ下がっていた。
紙で拭いたら…
みさき「ん!」
…そっとやらないとダメみたいだね…。
シュッ…シュッ…
こんな柔らかいのがあんなに硬くなるなんて不思議…
あれだけ硬ければあそこから中まで差し込めるよね…。
…あれ?
何か…また大きくなってきた…
え? え? え?
ちょっと、やだ、あんな事考えたからかな?
…もう一度できるんだ。
みさき「…って、違う! もう一度しなきゃならないんでしょ! 私!」
…何考えてるんだろ。私。
…私って、けっこうHな女なんだな…。
………
……
…
全員「はあ〜」
私達は屋上に隠れている。
トイレで大騒ぎしてしまい、変な噂が立つかも知れない。
その上、今の私達の奇妙なやり取りが人目についたら余計に薪をくべる事になりそうだ。
それにしても、何かお腹が張っている感じがする。
これは胸焼け? それとも満腹感って物かな?
こんなんで晩御飯食べられるのかな?
色々有り過ぎて全員疲れ切っていた。
飛び出した白い液体は、ねばねばしてて拭き取るのに一苦労だった。
それに…口にする勇気はなかったがとても栄養がありそうだった。
その栄養の分疲れているのかも知れない。
でも、嬉しかった。
友達の顔。
居心地のいい屋上。
オレンジ色に染まっていく町並み。
そして夕日。
景色って、こんなに綺麗だったんだ…。
落ち着いたら、見るもの全てが新鮮で、素晴らしかった。
浩平「済みません先輩、色々とんでもない事して…」
とんでもない事って何だろう…? 私も…凄い事になってしまったけど。
みさき「仕方ないよ、…お、お互いさまだし、私も見えなくなったばかりの時は良く怪我したから」
確かスカートのポケットに絆創膏を入れてたはずだ。
私になった浩平君のスカートのポケットから取り出し、怪我をした指の傷口に巻きつけた。
長森「これから、どうしよう?」
みさき「このままって訳には行かないよね…」
それぞれの家族に、どう説明したらいいんだろう?
それに男の子のままってのはちょっと…
浩平君は深刻に考え事をしている。突然私と入れ替わってしまったのだから当然だろう。
表情がほころんだ。何かいい事でも思いついたんだろうか?
顔が赤くなった。何を考えているんだろう…?
あ、落ちこんだ。どうしたのかな?
雪見「ぶつかって入れ替わった訳だからまたぶつかってみたら?」
浩平「そんなマンガみたいに上手く行くかよ?」
みさき「今の状況だってマンガみたいなものだよ?」
浩平「そうだな…じゃ、試してみるか?」
みさき「うん。それじゃ、痛いけど我慢してね」
長森「…なんかHだよ…」
私になった浩平君の肩に手を添えて…
ごんっ!
暗転。
………
……
…
浩平&みさき「あいたたた…」
浩平「お、見える、見える! 成功だ!」
みさき「あ、真っ暗だ、元に戻れたんだ」
真っ暗になってしまった。
突然何かが覆い被さってきた、どうやら抱きしめられたらしい。
みさき「こ、浩平君…恥かしいよ…」
浩平「今、気付いたんだ。こうしてみさき先輩の顔を見られることがどれほど嬉しいかって…綺麗だ、先輩」
みさき「……」
私の顔を見る事ができて嬉しい? 私が綺麗? そう言ってくれるのは嬉しいけど…だけど…
雪見「わぁ、浩平君だいた〜ん♪」
真っ暗になってしまった。
長森「あはは…あてられちゃうね〜」
喜ばなくてはいけない、元に戻れたんだから。
あれは浩平君の体で、これが私の体なんだもの。
みさき「……」
闇…
雪見「…みさき、どうしたの?」
もう何も見えない。
みさき「…何でもない、元に戻れて良かったよ」
浩平「……!」
浩平「俺って最低だ…」
どうやら戻った事を心底済まなく思ってるらしい。
みさき「気にしなくていいよ、元々浩平君の体なんだから」
見続けたかった…この世界を見続けたかった…
みさき「ほんの一時だけでも、二度と見られない筈だった物を色々見られたんだもの」
でも、あれは浩平君の体だから、ちゃんと返さなくてはならない。
みさき「それだけで充分幸せだよ」
駄目、泣いちゃ駄目…浩平君を苦しめたら駄目…
みさき「それ以上望んだら…ばちが…当たる…よ…」
頬に熱い物を感じる…駄目だった…ごめんね、浩平君…
………
……
…
沈黙が続く、誰も何も言えないんだろう。
みさき「浩平君?」
何か、言わなきゃ、このままじゃみんな辛すぎるよ…
みさき「さっきからどうしたの? 何か考えこんでたみたいだけど?」
浩平「いや、な、何でもない」
長森「いつのまにか真っ暗だね、そろそろ帰ろうか」
相当時間がたっていたようだ。
いい加減寒いので校舎の中に戻る。
雪見「足元が危ないから明かり点けましょ」
それから帰ろうとしたら…
浩平「そうだ!スイッチだ!」
3人娘「……?」
浩平「じっとして、痛いけど我慢して」
みさき「え? え? え?」
突然、私の肩に手が添えられて…
ごんっ!
………
……
…
光。
廊下。
そして…額に手を当ててうずくまるお母さんに似た黒髪の人。
浩平&みさき「あいたたた…」
浩平「…おっ、真っ暗だ、成功成功」
みさき「見える…でも、どう言う事?」
浩平「ずっとこのままって訳にはいかないけどさ、時々交代してみない?」
みさき「交代って…いいの?」
浩平「いいよ、俺の目を使って色々な物を見てくれよ」
浩平「そうしておけば、自分のこの体に戻っても、これまでよりもっと色々な事ができるようになるんじゃないか?」
みさき「え? それって…」
みさき「でも…悪いよ、ただでさえ色々迷惑かけてるのに自分のハンデまで押付けられないよ」
浩平「もし、本当にそう思ってるなら、俺…怒るぞ」
みさき「浩平君……」
浩平「俺、先輩の事好きだ! だから力になりたい、自分でそう望んだんだ。それなのに変に気なんか遣わないでくれ」
みさき「……見えないのって、本当に大変なんだよ? それでもいいの?」
浩平「覚悟してる。きっと、先輩みたいに乗り越えて見せる」
みさき「……辛いよ?」
浩平「くどいぞ」
みさき「………………私になってる時に、私の体に変なことしない?約束できる?」
浩平「……………………………………約束する」
みさき「今の間は?」
そりゃあ、私だって…その…
浩平「約束する」
みさき「ありがとう…」
嬉しくて、思わず浩平君に飛びついた。
私に光をくれた大切な人。
浩平「えっと…みさき先輩?」
…変な感じ、自分で自分を抱きしめてるんだもんね…
浩平「…こう言う事は自分の体でやろうな」
みさき「そうだね……」
………
……
…
深山雪見の日記
あれからも、みさきは変わっていない
浩平君の体を使って目が見えている時も、みさきの体で目が見えていない時とあまり変わらない
始めは、体を貸してくれている浩平君に気を使っているのかと思っていたけど…
良く見てみると、浩平君の体を使ってるみさきは他の男の子より活発だった。
そして、浩平君と会う前と変わらないように見える。と、言う事は…
昔から、みさきは男顔負けの元気さだったのだ。
みさきにとって、目が見えるかそうでないかは問題ではない。
それだけ強い人間なのだと思う。
私はそんなみさきの親友である事を誇りに思う。
ただ…最近、浩平君の体で行動するみさきを見て『ドキドキ』する事がある。
浩平君そのものを見たときはそんな事はなかったのだが。
みさきはあくまでも親友だ。決してそんな趣味はない。
無いんだからね!
絶対、
多分、
きっと…
END