(藤井冬弥×緒方理奈(WHITE ALBUM))

「ふあぁ、ああっ。と、冬弥くん、冬弥くんっ」

「り、理奈ちゃん。や、やばいって。そんなに激しく動いたら、俺、すぐに……」

 俺に跨って一心不乱に快楽を貪っている愛しい彼女――緒方理奈には、もはや俺の声なんか届いちゃいなかった。

「理奈ちゃ……ぅあっ」

 下腹部から間断なく伝わってくる甘美すぎる刺激に思わず顔を顰める。恥ずかしい事に苦しげな喘ぎすら漏らしてしまった。
 しかし、それでもやはり理奈ちゃんの動きは止まらない。
 完全に快楽に溺れてしまっていた。

「いい、いいよぉ……とう、や、くん……っっ」

 ま、それも無理からぬことだとは思う。
 昨日まで、理奈ちゃんは3週間ほどプロモーション撮影の為に海外ロケに出ていた。無論、俺を日本に残して、である。
 恋人のいない3週間。一人寝の3週間。理奈ちゃんだって年頃の女の子だ。欲求不満にもなるだろう。
 加えて、進んでいそうな派手系の見た目とは裏腹に理奈ちゃんはかなり身持ちが固い。俺以外の男には絶対に身体を許したりはしない。
 となれば、欲求は蓄積され続ける一方。理奈ちゃんがいない間も由綺や美咲さんに愛を注ぎ込んでいた俺とは違って、解消されることなく容赦なく膨らみ……。

「あああっ、あぁあああ、んああぁ」

 そんな状態で迎えた約20日ぶりの逢瀬。
 我を忘れる程に乱れてしまっても、それは致し方の無い事だろう。
 けれど、さすがにこの激しさはちょっと辛いものがある。
 女性上位の体勢になっている為に腰は楽なのだが、その代わりに他の全てが酷使されている気がする。

「あふぅ、っぐ……くぅぅ」

 ボイストレーニングで鍛えた喉はこんな時にも威力を発揮し、俺の聴覚をこれでもかと攻め立ててきた。

「冬弥、くんっ……あっ、ひあぁっ」

 恍惚とした表情で喘ぎ、自分で自分の美しい胸を揉み捏ねて悶える姿は、俺の目に休む事を許さない。

「んんっ……ぁあ……」

 理奈ちゃんから発せられる香り。
 全身から放たれる甘い匂い、繋がった部位から零れる淫靡なオンナの匂い。
 それらが俺の嗅覚を魅了し続ける。

「……ぅむ……っ……ぁ……」

 時折施される深い口付けの際には、俺の舌は理奈ちゃんの味を貪欲なまでに求めた。

「ふあぁぁあああ、ああぁぁぁ、あっ、ぅあああぁぁっ」

 そして、擦られ絞られ締め付けられる『俺』。

「……り、理奈ちゃ、ん」

 五感の全てを愛される。全力で、躊躇いなく、遠慮なく。
 激しく、激しく愛される。

「うあ゛っ。や、やば……。お、俺……」

 全感覚へと施される愛儀に因って俺は早くも限界を超えつつあった。
 今にも勢いよく吐き出してしまいそうだ。気を抜いたら、その瞬間に達してしまうのは明白だった。

「ぐっ……だ、ダメだ。も、保たな、い」

 怒涛の如く襲い掛かってくる快感の濁流。
 とてもではないが耐える事なんて出来ない。

「ごめん……り、理奈ちゃ……も、もう出る」

 理奈ちゃんに許しを請いつつ、俺は身体に込めていた力を抜いていった。解き放つ為に。叩き付ける為に。
 しかし、その瞬間、

「くぁああああああぁ、ぁぁあ、ああっ」

 理奈ちゃんの全身に、オンナに痙攣が走った。
 即座に悟った。理奈ちゃんも昇り詰めようとしている。
 俺は歯を食いしばると、必死に射精感を抑え込んだ。先に理奈ちゃんをしっかりと満足させてあげたい、その一心で。

「ふあっ!? と、とう、や……あっ、あ、ぁあ、とう、や……くん、あぁあああああぁぁぁっ!」

 ギュッと目を固く瞑ると、俺は遮二無二腰を動かし始めた。
 上になっている理奈ちゃんを突き崩してしまうほどに荒々しく。

「ひああぁ! ら、らめぇ、冬弥、とう、や、くん……も、もう、あたし……」

 理奈ちゃんが何かに耐えるように全身を緊張させた。ブルブルと身体を震わせている。
 俺はその理奈ちゃんにトドメを刺すべく、二人の接合部へと指を這わせ、

「と、冬弥くん!? そ、それは……っ!?」

 すっかりと頭を覗かせてしまっている過敏な尖りとカリッと引っ掻いた。

「ひぐっ! っ! っっ、あ、ぁああ、あああああぁぁああああぁあああああぁぁっ!」

 刹那、甲高い叫びを迸らせて、身体をグンッと逸らせつつ、理奈ちゃんが果てた。
 同時に、俺も塞き止めていた全てを理奈ちゃんの中に吐き出した。

「……あ、はふっ、ぅあ」

 弛緩し、俺の上にパタッと倒れてくる理奈ちゃん。
 俺はその彼女の頭を撫でながら、体内に残る痺れるような余韻を味わっていた。
 ――が、余韻はすぐに新たな快楽へと変化を遂げた。

「うあっ。り、理奈ちゃん!?」

 見ると、理奈ちゃんが再び腰を振り始めていた。

「ちょ、ちょっと!?」

「ご、ごめん。精神的には満足したんだけど、肉体的にはまだまだみたい。だから、悪いけど、もう少し付き合ってね」

 言いつつ、尚も理奈ちゃんは腰を動かす。

「……ぁ、ま、待ってよ。さすがに連続は無理だって。少しは休ませてよ」

「大丈夫よ、若いんだから」

「わ、若くたって……ダメなもんはダメだってば」

 送られてくる悦楽に息を荒げながらも、俺はなんとか理奈ちゃんに動きを止めてもらおうと抗議する。

「ダメじゃないってば。問題ないわ。前に綾香とかあさひに聞いたんだけど、浩之くんとか和樹くんとかは連続は当たり前だって言ってたわよ。だから、冬弥くんも平気よ。安心しなさいって」

「うわぁ、ぜんっぜん平気じゃねぇ!」

 頼む、理奈ちゃん。『あいつら』と比べないでくれ。『奴ら』は規格外なんだから。

「そういうわけだから、続き、しましょ♪」

「だ、だ、だ、ダメだってのに。り、理奈ちゃ……あっ……そ、そんな……ふぁっ……」



○   ○   ○



「んー。快調、快調。気分爽快。今日も一日、頑張ろう!」

 翌日、理奈ちゃんは朝から上機嫌だった。
 英二さんやスタッフのみんなが訝しがるほどに。
 ま、とりあえず、昨日頑張った甲斐があったというものだな。うん。
 俺は苦笑しつつ栄養ドリンクをズズッと啜った。

「うわぁ。今日の理奈ちゃん、ものすごくイキイキしてるね」

 ニコニコと朗らかに笑いながら由綺が近付いてきた。

「対照的に、冬弥くんは死にそうになってるけど。ご苦労様、冬弥くん」

「あ、あはは」

 笑うしかない。

「それにしても、昨日の理奈ちゃんと冬弥くんは激しかったね。わたし、ドキドキしちゃった」

「き、聞こえてたのか?」

「うん。バッチリと。筒抜けだったよ。よっぽど我を忘れていたんだね。ビックリするくらいの大声が聞こえてきたもの」

 マジかよ。
 思わず頭を抱えてしまう俺だった。

「そのおかげで、わたし、寝不足」

「う゛っ。も、申し訳ない」

「……欲求不満にもなるし」

 ボソッと由綺が恥ずかしげに零した。

「す、すまん。悪かった」

「悪かったと思うのなら……責任、取ってよね。冬弥くんたちの所為で火が点いちゃったんだから」

 頬を染めつつ、上目遣いで軽く睨んでくる由綺。
 激烈に可愛らしい仕草だった。
 しかし、それに流されるわけにはいかない。二日連荘で激しいエッチをしたりしたら……枯れる。俺は浩之や和樹と違って普通の男なんだから。

「あ、あのな、由綺。申し訳ないんだが……」

「まさか、理奈ちゃんは愛せてわたしは愛せないなんて言わないよね」

 俺の言葉をバッサリと遮って、由綺がニッコリと笑いつつ訊ねた。
 優しくニッコリと笑って。本当に優しく。

「そ、そんなこと言うわけないじゃないですか。いやですねぇ。あ、あはははは」

 藤井冬弥、無条件降伏。何故か冷や汗をダラダラと流しつつ。

「うん。それじゃ、今晩、楽しみにしてるからね♪」

 俺の耳元に口を寄せてそう囁くと、由綺は鼻歌交じりで場を後にした。

「……なんつーか、女ってパワフルだなぁ」

 遠くなっていく由綺の背中を眺めつつ、俺は僅かに残っていた栄養ドリンクを胃に流し込んだ。

「もう一本買っておくか」

 ため息混じりに憂鬱そうに零す。
 しかし、言葉とは裏腹に身体の一部は早くもちょっぴり元気に。

「……身体は正直、ってか」

 なんのかんの言いつつも、結局は期待をしてしまっている俺であった。










浩之 :「つまり、所詮は俺たちと同類ってことだよな」

和樹 :「ああ、全くだ」

冬弥 :「違う! それだけは絶対にちがーーーう!」





< おわり >

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