(羽村亮×七荻鏡花(夜が来る!))

 あたしはほんのちょっとだけ後悔していた。
 部室にまだ誰も来ていないのをいいことに、椅子に座った亮の膝の上に腰掛け、彼の頬に軽く口付けしたりしてベタベタした事を。
 こう言っては何だが、あたしの恋人である羽村亮はバカでスケベだ。そんな男に対してこの様な事をしたらどうなるか。結果は想像するに難くない。
 頬へのキスは、何時しか口同士の啄ばみ合いへ。子供がする様なフレンチキスは、すぐさま舌を絡め合うディープキスへと変貌を遂げた。もちろん、バカでスケベでバカでスケベでバカでスケベな亮が口付けだけで満足するはずがない。当然のようにあたしの身体へと手を伸ばしてきた。

「んっ……んんっ……も、もう。こんなとこでダメだってばぁ」

「なに言ってるんだよ。先に仕掛けてきたのは鏡花の方だろ」

「そ、そうだけ、ど……あふっ」

 左腕であたしをギュッと強く抱き締めて動きを封じつつ、もう一方があたしの身体へと愛撫。第一ターゲットとされたのはあたしの胸だった。

「りょ、亮……んあぁっ」

 捏ねる様に荒々しく揉みしだかれた。あたしが痛みを感じないギリギリの強さで。

「んくっ……っ……ふぁっ」

 加えて、あたしの胸の先端に位置する蕾を、服の上から引っ掻く様にしてコリコリと刺激してきた。

「い、いやっ、いやぁ……ああぁぁっ」

 どうもあたしは、少々乱暴に扱われるのに弱いらしい。亮曰く『苛められて燃えるマゾ体質』なのだそうな。
 その性癖故か、あたしは早くも恥ずかしい声を漏らしていた。頭の中に霞がかかり始める。
 でも、このまま溺れてしまうわけにはいかない。何と言っても、ここは部室なのだから。

「お、お願、い……ぁん……み、みんなが……来ちゃう」

 快楽に溺れそうになる意識を無理矢理繋ぎとめ、理性を総動員してあたしは亮に訴える。

「だから……もう、やめて。ねっ?」

「本当にやめて欲しいのか? だったら腕ずくで逃げればいいのに。鏡花だったら不可能じゃないだろ?」

 あたしのお願いに返ってきたのは、ニヤニヤしながらの亮のそんな台詞。

「そ、それは……」

 思わず口ごもるあたし。
 確かに亮の言うとおり。逃げようとすれば簡単に逃げられる。チロに命じて亮の腕でも咬ませれば、彼の拘束はすぐに力を失うだろうから。

「でも、鏡花は逃げない。口ではなんのかんのと言いながらも」

 イタズラっぽい表情をして亮が言う。あたしには返す言葉も無い。

「つまり、期待してるんだよな。鏡花自身が、このシチュエーションに酔ってるんだ。誰かに見付かるかもしれないっていう今の状況に興奮してるんだ。まったく、エッチな奴だよな」

「ち、ちが……違う。そんなことない」

 決め付けるような亮の物言い。それに、あたしは首をブンブンと左右に振って応えた。

「違うのか? その割には」

「え? っ!? きゃふっ!」

 唐突にあたしの耳に挿し入れられる亮の舌。その柔らかな感触が、熱さが、頭の中で轟くクチュクチュといった湿った音が、あたしの背筋にゾクゾクとした悦楽の波動を送ってきた。

「ぅあ……あふぅ……んぁ……」

 全身から力が抜け、あたしは亮にグッタリと身を預けてしまう。

「無茶苦茶感じまくってるじゃん」

 言いながら、亮があたしのスカートの中に手を伸ばす。

「だ、だめ! そこは触らな……ああぁぁっ!」

「ほら、こっちだってもう濡れてるし。まだ愛撫なんてほんの少ししかしてないにも関わらず。なのに、いったい何が違うって?」

 責める様な口調で亮。

「いやぁ。言わないで……ひぁっ……い、言わな、いでぇ」

「なら認める? 鏡花が本当は期待してるって事を。今のシチュエーションに興奮してるって事を。やめて欲しいなんてちっとも思ってないって事を。――鏡花がエッチな女の子だって事を」

 下着越しにあたしの『オンナ』に愛撫を加えながら、口の端を微かに持ち上げて亮が意地悪く尋ねてきた。

「あ、あたし、そんなんじゃ……」

「鏡花はエッチな女の子だろ?」

 往生際悪く反論しようとするあたしの言を遮って、亮が再度尋ねて――否、確認してきた。
 指を下着ごとあたしの膣中にツプッと押し入れながら。

「あひぃぃ! っぐ! ああぁっ!」

 あたしの身体が電気でも流されたようにガクガクと痙攣する。
 間髪入れず、更に亮は、親指を使ってあたしの一番敏感な粒をグニグニと転がしてきた。

「うあああぁぁっ! んんんっ!」

 あたしの秘花から粘つく愛液がドッと溢れ出たのが分かった。
 そして、蜜と同時に抗おうとする気力までもが流れ出ていくのも。

「くふっ……あ……あ……っ……」

 亮の手が強く優しく縦横無尽に蠢く度に、あたしに対して容赦なく快感を叩き込んでくる度に、あたしが纏った心の防壁が少しずつ溶け崩れていく。
 全身が燃え上がり、今にも爆発してしまいそうな、破裂してしまいそうな感覚に襲われる。
 既にあたしの身体はあたしの物じゃなくなっていた。もはや、指一本動かせない。今のあたしに出来るのは、快楽を甘受する事と淫らな叫びを張り上げる事だけだった。
 もうダメ。これ以上は耐えられない。逆らえない。

「どう?」

 短く、本当に短く亮が訊いてくる。あたしの内心を見透かしたように。

「あ、あたしは……エッチなおん、なのこ……です。みと、め、ます」

 荒い息の中で、あたしは素直に屈服の台詞を口にしていた。
 結局はこうなっちゃうのよね。この手の事で亮に勝てっこないんだから。
 あたしの胸中に微かな悔しさが湧き上がる。

「ん、良い子だ」

 でも、負の感情はすぐに霧散してしまった。させられてしまった。

「それじゃ、エッチな良い子にはご褒美をあげないとな」

 亮が愛撫に熱を込めたから。本気であたしを堕としにかかったから。――盛り上がっていた、熱くなっていた身体に止めを刺してきたから。

「えっ!? ま、待って! そ、そんな……っっっ! あぁあああぁぁ! んくぅっ!」

 あたしの耳が、再度亮の舌によって侵食された。

「ひっ、ひああぁぁあぁぁぁぁっ!」

 やや強引にショーツをずらし、人差し指と中指をあたしの濡れそぼったオンナに挿し入れてきた。

「い、いやぁ……はひぃっ!」

 淫核への愛撫も忘れない。親指で器用に包皮を剥くと、過敏な部分に直接刺激を加えてきた。

「ふあぁぁぁぁっ! 狂っちゃ……あ、あたし、死んじゃ、うぅ……っ」

 更には、薬指は秘花とお尻の穴の間に振動を与え、小指はお尻の穴そのものを撫でさすってくる。

「や、やめ……んぅっ……そ、んなと、こ……ぉああぁぁああああぁぁぁっ!」

 五指による巧みな連携攻撃。しかも、あたしの弱点を知り尽くした男による淫らな拷問。
 あたしに、耐えられるわけがなかった。

「も、もうだめぇ! あたし……っ……あた、し……イク……ぅふぁ……イッちゃうよぉぉぉ! イク、イク……うああぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」



○   ○   ○



「ばか。ばかばかばか。亮の大ばか。毎度の事ながら調子に乗りすぎよ」

 拗ねた口調であたしが『ばか』を連呼する。

「あ、あはは。鏡花があまりにも可愛かったもんだからつい暴走した。申し訳ない」

「つい、ねぇ。随分とまあ頻発する『つい』ですこと」

 ジト目をしつつのあたしのツッコミ。

「そ、それだけ鏡花が魅力的だって事だよ」

 そう言うと、亮があたしの額や頬などにキスの雨を降らせてきた。

「あら、それはどうも。けど、そんなのじゃ誤魔化されないわよ」

 尚も半目を亮に向け、あたしは剣呑な響きをプラスした言葉を亮に送る。
 尤も、言動とは裏腹に、あたしの機嫌はそんなに悪くはなかったけど。
 なんのかんの言いつつも気持ちよかった事は確かだし、それに何より、エッチの最中、ずっと亮の心が伝わってきていたから。『すっげぇ可愛い』だの『綺麗だよ』だの『愛してる』だの、口にしたら照れてしまいそうな台詞がオンパレードで。
 だから、今のあたしは実は何気に上機嫌だったりする。決してそれは表には出さないけどね、亮が図に乗るといけないから。

「そこまで怒らなくてもいいじゃないかよ。思いっきり悦んでいたくせに」

「なにか言ったかしら?」

 ブツブツと小声で零す亮に、あたしは冷たい視線を向けてわざとらしく聞き返す。――内心、激しくドキッと胸を高鳴らせながら。

「い、いえ。滅相もございません。何も申しておりませんです、ハイ」

 平身低頭して謝る亮。
 そんな彼を見ながら、心の片隅で『ま、こんなのも偶にだったらいいかも。確かに亮の言った通りだしね。誰かに見られるかもしれないっていうドキドキ感がたまらなかったし、結構スリルあったし』なんて事を思ってしまったりしたあたしであった。
 ひょっとして――あたし、いけない快感に目覚めちゃったのかも。



○   ○   ○



 ――余談。

「せ、先輩と鏡花さん、大胆ですねぇ。勉強になりますよぉ」

「おい、三輪坂。覗いてんじゃねーよ。行儀悪いぞ」

「そういうモモちゃんだって覗いてるじゃない。鼻血出てるよ」

「うおっ! ま、マジか!?」

「亮君と鏡花ちゃん、エッチなのはいけないと思います」

「は、羽村に七荻、神聖な学舎でなんてふしだらな行為を! 心が汚れている証拠だ。俺が後でミッチリと鍛えなおしてやる! 健全な精神は健全な肉体に宿るのだぁ!」

 亮と鏡花の行為は他の部員にしっかりと目撃されていたりする。
 当分の間、二人が面々のオカズになるのは間違いなかった。
 ……いろんな意味で。




< おわり >

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